〔商品レビュー〕自転車競技コーチ・マネージャー・競技役員必帯「ホイッスル」の世界

「令和6年 能登半島地震」で被災された全ての皆様に心よりお見舞いを申し上げます。度重なる報道を見ていると本当に圧し潰されるような感情が去来します。特に一昨年お世話になった能登島コミュニティセンターが避難所になっているとのこと…。いまこの時点で出来ることは多くありませんが、当サイトも皆様の御心に寄り添い、皆様と共にありたいと思っております。どなた様も引き続き余震が続いておりますので、先ずはくれぐれも安全にお過ごしください。〔1月5日〕 

〔商品レビュー〕コーチ・マネージャー・競技役員必帯のギア「ホイッスル」の世界

 

 今日は北信越高校総体をお送りする予定でしたが諸般の事情により内容を変更してサイクリング長野ドットコム初の「商品レビュー」をしたいと思います。因みにウチはメーカーに相手にされないんでノーステマです!むしろ提供があれば商品宣伝は喜んでします(笑)

さて、初の商品レビュー何をしようかと考えたところ、昨日FIFAのW杯が開幕したのでサッカーに絡めたレビューをしたいと思います。所でサッカーファンで無い自分が開幕戦の何に注目していたか?と云うと「主審のホイッスルの音」です。一般の方にはあまり知られてませんが、サイクリストにとってホイッスルは必帯ギアです!コーチ・マネ・審判が持つのは当たり前として、ライダーも事故の際に車に存在を知らせたり、コーナーを曲がり切れずに崖下に転落して動けない時など、安全に関わる重要なツールの一つです。

 

自分は自転車ではこの4種類5個のホイッスルを何時も状況に応じ必ずペアで使ってます。(一番手前はコルク無しの笛)

 

ウチのような田舎は、早朝練で峠を登っているとほぼ必ず野生生物に遭遇します。カモシカが多いですが「もののけ」や「山の主」と云う図鑑に載って無いUMAにも稀に遭遇します。また一番恐ろしいのは「黒いアイツ」と鉢合わせすることです。それは戦うか?逃げるか??命の選択です。因みに黒いアイツと鉢合わせして自転車で上へ逃げたら殺されます。しかし、下りでの奴もまた猫みたいに速い!ではどうするか?

そもそもアイツに合わないようにするしか無いですが… 出会ってしまったその時にホイッスルが役に立ちます!少し前に山で遭遇した時、ホイッスルを吹いたらアイツは「うるせーよ!」とのしのしとその場を去って行きました。やはりサイクリストに関わらず山に入る時は「ホイッスル」と「シクロのカウベル」は必帯をオススメします。

また、これから書くことは競技役員はほ各自こだわりがある訳ですが、先日のTOJで初めて立哨に立った新人さんにホイッスルについてどんなのを買ったらいいか聞かれたので、これから東京五輪で自転車のボランティアを目指す方!おそらく道路警備をする上で持つように言われるかも知れません。そんな方々の後学の為、その他マネージャーさんやコーチの皆さんの参考になればと思い綴って行きます…

それでは「自転車ホイッスルのレビュー」を始めます。

 

 

ホイッスルの種類

 

 お馴染みのホイッスルには二つの種類があります。それはホイッスル内に球状のコルクが入っているコルクタイプと入っていない非コルクタイプ現在のサッカー界ではほぼ「非コルク」、ラグビー界ではほぼ「コルク」を使っています。そこにはホイッスルの明確な特性があるからです。(実はバレーボール用やバスケットボール用もあるのですが、野外が多い自転車競技の為にサッカーとラグビーの特徴を中心についてお話しします)

 

コルクタイプ 非コルクタイプ

〔利点〕

 ・高音から低音まで様々な笛が作成可能

 ・音に吹き手の感情を表現を出すことが可能。

 ・雨天でも音が出せる

 ・メタル製の物は本体に耐久性がある

〔利点〕

 ・コルクより高音を出すことが出来る

 ・コルクより大音量が出る

 ・ピッチの短い音・鋭さを出せる

 ・殆どがプラ製なので手入れが楽 

〔弱点〕

 ・「非コルク」に比べ高く大きい音が出しにくい

 ・短い間隔の音を出すのにコツがいる

 ・洗浄時コルクを乾燥させないと不衛生

 ・コルクは劣化するので交換が必要

 ・真鍮製は錆びやすい

〔弱点〕

 ・大雨の時は音が一気に出づらくなる

 ・音に抑揚や感情を付けづらい

 ・構造上、現在の所「低音のもの」が少ない。

 ・殆どプラスチックなので本体の耐久性が低い

 ・吹きが軽いのでクリアな音を出すのにコツがいる

 

画像手前:高音サッカー用(野田鶴声社製)画像奥:低音ラグビー用(英国ACME社製)大きさが倍以上違う。

 

 ホイッスルで一番大切なことは「プレー中の選手・観客に対して注意を促すこと。大きな音が出ることは最重要なことなのですが、同時に大切なことはそれをどう聞き手に伝えるかです。サッカーは10万人観客が入るスタジアムもあり試合中ずっとサポーターのチャント(応援)が流れています。そこではより高音(周波数)でより遠くまで届く音の出る笛が好まれます。一方でラグビーと云う競技は、スクラムと云うコンテストプレーがあり、その激しさ故に高音を出すと選手がよりイキり立ってしまう為に音が低音かつ抑揚が出せる(広音域)笛が好まれます。そして外見でも解かるように低音のホイッスルほど構造上ホイッスル本体を大きくする傾向があるようです。では、ここで音を聞き比べてみてください。

 

2018年現在、日本のJリーグで恐らくシェアNo1?と思われるモルテンバルキーン(非コルク型)

 

2018年現在、15人制ラグビーではシェアNo1と思われるACME社サンドラー(コルク型)

 

この二つの音色でもだいぶ違うと思います。そして、非コルクの音は「ややかすれ気味」の傾向も解って貰えます。確かに非コルクは高音・大音量が可能ですが抑揚が付けづらく単調な音になりやすい吹き手の技量が問われます。一方でコルクは吹きが多少重いのですが誰にでも音が出しやすく、上級者はコルクを利用して抑揚もつけることが出来ます。次の章では自転車競技にオススメの笛を紹介する前に「ホイッスルの吹き方」に軽く触れたいと思います。

 

 

知ってるようで知らないホイッスルの吹き方

 

 当たり前のことですがホイッスルは楽器です!他の楽器と同じように演奏者の技量によって音色が大きく変わって来ますFIFAやワールドラグビーのプロ審判は実はホイッスルを吹く技術も一流です。個人的にはNRL(ラグビー13人制)の審判は時に同じ笛かよ?と思わせる位に抑揚や感情を音に乗せるのが上手く、より低音を深く出す技術が凄い(個人的に低音を出すほうが難しく、ハーモニカのブローベンド奏法のようにひと吹きの中でオクターブ下げるNRLレフリーの技術は凄いと思います)。そこには以外と知られていないホイッスルの基本技術があるので興味のある方は下記の動画をご覧ください。

 

 

この動画を知っているかどうか?でホイッスルの技術は大きく左右されます。またこの画像と二つ上の「バルキーンの音声視聴」映像を比べてみると吹き手の技術の違いが解かると思います。では、自転車競技にはどんなホイッスルが適しているのか?それを次の章で考察します。

 

 

自転車業界に適したホイッスルってなんだ?

 

〔マネージャー・コーチ編〕

 マネージャーやコーチにとってホイッスルは日々の練習の中でとても大切なものだと思います。ただ自分も選手の時に思ったのですが、高音・ハイトーンのホイッスルを近くで大音量で吹かれると、ハードワークをしている選手は「このくそ暑い時にうっさいわ!」となります。そういう意味でも選手達に聞こえる必要範囲内でしっかり聞こえ選手を著しく刺激しない程度の中~低音のものが良いかと思います。そこで…

 

 

 

実はこの笛バレーボール用なんですが本体が伸縮します。本体が短い時は高音・長い時は低音と使い分けられる優れものです。また本体が縦長なので持ち運びも便利かと思います。上の画像で千円程度と値段も魅力です。峠練時のクマよけにもオススメかも知れません。音色はこちらから

因みに自分がコーチや体育の授業をしていた時は、低音のラグビー用とサッカー用(コルクタイプ)を二つ持ち使い分けていました。また最近はモルテン社が「コーチ専用のホイッスル」を発売しています。商品説明(PDFファイル)

 

 

自分は使ったことが無いのですが、レフリー用の課題「音のかすれを軽減」少しの息でもクリアな音が出やすくなっているそうです(そのぶん大音量は出づらいかもしれません)。もし使われた方いらしたら感想を聞かせて下さい。

 

 

〔レース時の立哨役員・安全保持役員〕

これは自分の体験ですが、とあるロードレースの国際大会でコース立哨役員をやった時のことです!自分の目の前のコーナーで集団落車が起きました。もちろん後ろからはチームカーやオフィシャルカーがコーナーめがけて突っ込んで来ます!イエローフラッグを持って選手を助けに行きながらも、後ろから次々と猛スピードで突っ込んでくる車やそれを利用してやってくる後続選手に警告を与えないと二次災害どころか自分も轢かれてしまいます。この時の経験からつくづく思ったのはとにかく、猛スピードで遠くからやってくる車の中にも聞こえるような高音・大音量のホイッスルでないと本当に選手・観客・自分と誰一人の安全も確保出来ない!とにかくホイッスルは安全を確保する上での生命線だと痛感しました。

 

 

 

上の動画でも紹介していますが、現在のサッカー界の中で最高峰とも言えるモルテンのバルキーン。その魅力はハイトーンだけでなく、吹きやすさと握りやすさも兼ね備えています(立哨の際にはあまり関係ないですが)。そして、短いピッチの音を出す「小回りの良さ」も大きな特徴。勿論「熊よけ」にも最適ですが購入する場所によっては少々高価で5千円以上するのが難点。(上の画像「楽天」では3千400円程度) 音のサンプルはこちらから

 

また現在、自分が「美鈴湖トラック競技場」で愛用しているのが…

 

 

 

 

 

カナダの「FOX40クラッシック」で落車を知らせる際にキレのある音を素早く短いピッチで出せます。四方を山に囲まれ空気の薄い美鈴湖競技場にあって非常に高音が良く共鳴して自分の知る限り一番相性が良く、雨さえ降らなければ美鈴湖ではコルクよりも非コルク系をおすすめしたい。また下記の動画にあるとおり独自構造で3つ音色を出すことが可能

 

 

FOX40自体は様々なブランドとコラボしており、欧州サッカーを見ているとよくこの笛を愛用している審判が多いです。非コルク系で安くて高音がする上に非常にカラフルなカラーラインナップも魅力。ただし安さ故の欠点として大きい音を出すのに多少コツがいる事と、構造上かなりリニアな音なので抑揚をつけにくい。元々カナダのアウトドアホイッスルメーカー(グレスリーよけ)だけに「クマよけ」には効果抜群(と思われる)。また、吹き口が柔らかく噛むと変形しやすいのでゴム付きを買うとよい。

 

 

〔自転車審判編〕

 長野県自転車競技連盟の3級審判講習会でその年の講師だったUCIの藤森信行コミッセールが、審判道具の話しになった際にホイッスルに触れてこんなことを言ってました…

 

 自転車の審判にとって大切なのは大きな音で、選手だけで無く会場にいる観客の人にも伝わるものが望ましい。

 

審判員では「シクロクロス」や「トラック競技」で選手にホイッスルでスタートを知らせる時があります。また、たまにある悪いケースでトラック競技の際にバック側で吹いた笛の音がホーム側に届かない場合があります。吹き方にもよるのですが、やはり個人的にも高音が出ることと抑揚や強弱が付けられるものが望ましいと思われます。

 

 

 

因みに藤森コミッセールがその時期に使われていたのが「モルテン社のドルフィン」。関西クロスでは女性審判の方に人気なようで多くの方々が使っておられます。記憶が確かならば、この笛はJリーグ開幕時のオフィシャルホイッスルで今なお根強い人気があります。非コルク系でドルフィン型のかたちだけでなく優しく吹くとイルカの鳴き声のようにも聞こえる特徴的な音がします。因みにJスポーツでフットサルの試合を見ているとこの音を良く聴きます。ただし個人的にはこの笛も安定した綺麗な音を出すのはFOX40以上にコツがいる気がします。音のサンプルはこちら

 

 

伝説となった世界に誇る日本製ホイッスル

 

 県外の自転車審判で愛用者が非常に多いホイッスルが大正8年創業の葛飾区亀有の野田鶴声社。1982年にFIFAワールドカップの公認ホイッスルとなって以降、NATO軍やパリ市警などスポーツ以外の分野でも世界的に評価が高いホイッスル。葛飾区の下町の工場で作られていて2002年の日韓ワールドカップの頃はこの綺麗に加工されたクロームのホイッスルを持つことは様々なスポーツの審判にとって一つのステータスだった。

所謂コルクタイプのクラシカルな物だが、粗悪品が多いホイッスルの中でその精度の高さは芸術品のよう。ホイッスルの中のホイッスルで現在もマニアが多い。とりわけ世界一のコルク真球度と特殊加工技術の影響で吹く人を選ばず誰でも高いレベルで音の出せる日本らしい万能ホイッスル。初めて持つなら非コルク全盛の現在でもこれを一番に薦めたい。

 

 

アディダスやプーマ・アンブロ等のメタル/プラホイッスルを受注生産していたのもこの会社。もしこれらのメーカーのホイッスルを持っていたら吹き口の裏を見て欲しい。そこには「NODAKAKUSEISHA」もしくは「Tokyo Japan」と刻印がある。

 

 2006年に野田鶴声社にお邪魔した際に野田社長に見せてもらった歴代の様々なホイッスル達

 

ここまでホイッスルについて書いてきたが、全ては2006年に野田鶴声社の野田昌弘氏との出会いに始まった。そして、長年日本のホイッスルを一人牽引して来た氏が鬼籍に入られたのを自分が知ったのはそれから2年以上経った今から数か月前のことだった。

今思えば日本のスポーツ界とホイッスル業界の草分け的な人の話を聞くことが出来たことは財産だ。10年前氏が自分に語ったこと…

 

ウチは跡取りがいないから、これでウチの会社はおしまい。

だから、こうして若い人に自分の笛を使ってもらえることは嬉しいねぇ。

自分が死んでもどこかでウチの笛の音が鳴り響いている訳だからさ、ハハハ…。

 

少しセンチメンタルな話しで申し訳無いが、野田鶴声社は既に廃業してホイッスルは氏が生前に作成されたものしか残っておらずネット販売を見てもプラスチック製の物しか見当たらない…

 

 

 

楽天やアマゾンでもあまり残っていないので気になる方は早めに手に入れて下さい。奥さんが「この人死んじゃったらウチの会社終わりだから買うなら今よ~」って茶目っ気たっぷりに言われてたが、本当に手に入らない幻のホイッスルになってしまった…

 

 

最後に…

 

 そんな訳で、サイクリング長野の自転車商品レビューいかがでしたか?もう自転車機材のレビューなんてどこでもやっているので、ウチはあえて違うことやってみました。正直、ホイッスルなんて100円ショップの物でいいんですよ!(流石にスターターはちゃんと高音もしくはある程度の笛と技術が無いとホーム&バックの距離で音が聞こえない!)

ただ、大型ディスカウント店の格安自転車同様にホイッスルにも「100円ショップのもの」と「スポーツ店にあるもの」がありその違いは大きく、演奏者の技量を問わず100円のホイッスルが出せる「音の大きさ」と「音質」の限界はとても低いとだけ覚えておいて下さい。

また、コルク無しは大音量・高温が出るけど綺麗な音が出せるまで慣れが必要。最初はコルクがオススメかも知れませんね…。ここまで綴りながら何となく手組・完組ホイールに通じるコルクと非コルクのホイッスルの世界。またネタに困ったら何らかのレビューをするのでお楽しみに…

 

 

野田社長、あなたの残した笛の音色

最近のサッカー中継からはすっかり

聞こえなくなってしまいました。

でも、全国の自転車競技場では至るところで

その音色が響き渡っていますよ。

自転車界にはまだまだその魅力を

愛している人達が沢山いますよ…と。

 

 

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関連LINK

モルテン社ホイッスル(公式HPより各製品サウンドテスト)

MIKASA社ホイッスル(公式HPより各製品サウンドテスト)

ACME社(イギリス公式HP英語)

FOX40社(カナダ公式HP英語)

野田鶴声社紹介ページ