もくじ
〔特集〕2019日本シクロクロスU-17女王 大蔵こころ選手(赤穂中出)による全日本選手権レポート。
12月8日(日)に愛媛県内子町で行われた、今シーズンのシクロクロス(冬自転車)日本一を決める「第25回シクロクロス全日本選手権」で見事にU-17日本女王となった大蔵こころ選手(松山城南高:赤穂中出)よりレースのレポートを頂きました。
既にご存知の通り大蔵選手は、今年3月に赤穂中学を卒業すると単身で自転車の名門である松山城南高校へ自転車留学。1年目からトラッック競技で愛媛・四国の高校チャンピョンとなると、8月に松本で行われたJOCジュニアオリンピックで初優勝。ロードレースでは「インターハイ」「国体」「全日本」で入賞とルーキーながらも華々しい活躍を見せました。そして、留学先で初開催となったシクロクロス全日本選手権では地元の大声援を受けて自身初の日本チャンピョンのタイトルを獲得しました。そんな、お大蔵選手からのレポートとメッセージをご覧ください。
大蔵選手によるレースレポート
まず、レースレポートを書く前に、たくさんの方々に感謝の気持ちを伝えたいです。 サポートしてくれた方々、応援してくれた方々、 スタート前にテンパっていた私を助けてくれた方々 本当にありがとうございました!チップのことでは、ご迷惑をおかけし、 すみませんでした。 無事スタートをすることができ、良かったです。
シクロクロス全日本選手権 今回は、U17最後の年で、最年長で、プレッシャーもあり、 スタートをし、1周目の後半で少しペースをあげ、2位との差をつけ、 1周目に、自分は階段が遅く、その後に少し離い、 やはり、3周目の最初の階段で、 すぐにまた追いつくことができました。そのまま、3人で4周目に入り、
自分1人じゃ、優勝できませんでした。 大蔵こころ(松山城南高等学校)
自身のキャリアを通じて初めて全日本チャンピョンの「日の丸ジャージ」に袖を通す。
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全日本選手権の様子
場内に名前がアナウンスされスタートにつく大蔵こころ(松山城南高:赤穂中出)
序盤から大蔵含む3名の大接戦となる。
信州クロスに比べれば断然暖かいのだが、それでも階段を上る際には吐く息が白くなる。
途中で少し遅れるもの直ぐにリカバリーして前の二人を追う。
道幅の広い所では3名がサイドバイサイドになって先頭を譲らない。
何度も3名パックの最後尾になるが、それでも地元の声援を受けて粘りの走りを見せる。
最後の直線で2位に22秒差をつけてゴール。
小さな小さなガッツポーズが印象的だった。
表彰台で自身初の日本王者ジャージを着てインタビューを受ける。
サイクリング長野より…
大蔵選手の2019年シーズン
昨年の高校自転車界において「春夏連覇」を果たした
自転車の名門である松山城南高校に越県留学すると言うことで
本人にとって、この2019年と云う年は激動の1年間だったと思います。
県における前例としては、現在、競輪で活躍する今野選手が
松山聖稜高に自転車留学したことも、確かにあるのですが
女子中学生が、こうした決断をして
親元を離れて高校生活を送るという例は県内で聞いたことが無く、
それはとても勇気のある決断だったと思います。
それに対して、信州自転車界の大人たちが
様々なことを言ってました。しかし、
そんな雑音を「結果」で黙らせた!
大蔵選手に、いま改めて
心より敬意を表したいと思います。
自身初の全日本タイトル戴冠は3名でのマッチレースを制して…
過去のライバルとの差、現在のライバルとの差
実は、自分は大蔵こころ選手のことを
昨年6月のMTB全日本選手権まで知りませんでした。
厳しいようですが、昨年の自分の印象とすれば
良く言えば…
マウンテンバイク界で3番目の選手。
上には、渡部春雅と云う今をトキメク絶対女王。
2番手では中島瞳を云う、この世代の顔とも言える
絶対的なタレントがいる中で、頑張って3番目…
という印象でした。現にデーターを見ると
ライバルの中島選手との昨年の差は…
全日本MTB選手権で約4分。(JCF公式:PDFファイル)
全日本シクロクロス選手権で約2分(AJOCC公式)
悪く言えば、秒を争う自転車競技の中で
この1分以上の差はもう、いかんともし難いものと考えていました。
しかしながら、今年の結果から言えば
22秒と僅差ながらも中島選手を制して
自身初の全日本タイトルを奪取したことが
この一年の大きな成長の証だったと思います。
昨夏の段階では、中島・渡部と両選手との差は
同一コースを走らせても5分以上あった。
〔画像:左から中島・渡部・大蔵〕
今シーズンのハイライト
サイクリング長野から見て、今シーズンの
大蔵選手のハイライトとなるレースを挙げるとすると
全日本選手権ロードレースを大きなターニングポイントに
挙げたいと思います。初の全国大会となったロードで
大蔵選手は、メイン集団6名で「3位表彰台」を争う
スプリント勝負に残ります。ここで、いち早く勝負を仕掛け
飛び出したのですが、結局はこの集団スプリント最下位となり
9位と云う結果で、高校生として初めて臨んだ全国大会を終えます。
しかし、大学生も含めた全国の強豪相手に9位は大きな
《自信》となると共に、それ以上にレースにおける「駆け引き」や
「勝負所の見極め」といった様々な《経験》を得ることになります。
高校初の全国大会となった全日本選手権ロードレース
全国の強豪と対等に渡り合い、確かな成長を感じる。
自信と経験
その《自信》は、インターハイ4位入賞・JOCジュニア五輪トラック優勝へ
繋がります。特に地元信州で行われたジュニア五輪では終始
堂々とした存在感のある走りを見せての個人追い抜き初優勝。
また、《経験》が生きたレースで挙げたいのは
茨城国体ロードレースの最終局面で、けん制し合う有力選手を横目に
思い切って前を出へ出ることで5位入賞。
6位が来年の東京五輪オムニアムでメダルを狙う梶原悠未選手、
7位が2015年の世界選手権で日本人女子初の銀メダルを獲得した
上野みなみ選手という、現在の日本のトップ選手を制しての
入賞だったことは、今後の大きな財産となることと思います。
茨城国体で梶原・上野両選手を制し5位入賞を果たしたことが今後の大きな財産となる。
決して才能では無く…
こうして振り返ると、大蔵選手は
その進路選択も含めて、非常に積極的で
才能恵まれた選手のように思えますが
素顔は意外なほど控え目な選手で、
どこの大会へ行っても一番小さい選手が大蔵選手。
体格的に恵まれている訳でも無く、才能と云うよりも
松山城南高校と云う新たな土地で、一生懸命に周囲や
環境に適応し、努力を重ねている選手と感じています。
前筆の通り、昨年のライバル中島選手とのタイム差を比べても
1.5年前で5分の差、1年前で2分の差。
それを覆しての今大会初優勝でした。
どれだけ質の高いトレーニングを受けようと、
良い指導者に師事しようと、それ以前に
環境に適応出来ずに潰れて行く選手は、自転車に限らず
このスポーツ界には沢山います。今年の大蔵選手の
強さの源はまさにここにあり、環境の変化への適応が
大きな成長をもたらした。そして、
大蔵選手も感謝を述べていますが
多くの方々との出会いや献身的なバックアップも
見逃せません。おそらくそれも大蔵選手の「人となり」が
助けてくれる人を呼んでいる… そんな気がします。
レース後に計測チップを丁寧に返却する大蔵選手。
今後への期待…
さて今大会、自身初の日本女王となりましたが
この一年を見る限り、まだまだ全国のトップを
目指すのであれば、スピードもパワーも足りません。
もちろん、まだ昨年までは中学生だった選手です。
ライバルである、中島選手・渡部選手は二人とも
既にMTB・ロード各種目で日本王者のジャージを着ていて
ようやく同じ土俵でレースが出来るところまで
来たに過ぎません。渡部選手も中島選手もまだ上の存在である。
それはおそらく大蔵選手が一番わかっていることだと思います。
それを踏まえて来年どんなレースを見せてくれるか?
大きな期待が持たれます。
ただ今後、一つ心配なことがあるとすれば、
今年大きな結果を残したことで
絶対に焦り過ぎないこと。
まだ成長過程の「ユース・ジュニア」の選手です。
先ずは、目の前にある階段を一歩ずつ上ってもらい
行く行くは、応援してくれる人や
信州・予州の自転車を志す少年・少女に
希望を与えられる選手になってくれればと
心より願っています。
初めての日本王者の仲間入りとなった。
大蔵選手、レポートありがとうございました。
来年も是非がんばって欲しいと思います。
そして、大蔵選手の活躍で長野県自転車界には
本当に大きな課題が残りました。
今後の若手選手の人材流出です。
それは単に自転車で勝てる人材だけで無く
今後の長野県自転車界の未来を担う
人材の流出も懸念されます。
長野県には「自転車人」を育てる
土壌がハッキリ言ってありません。
かつてのカリスマや、名選手は多数いますが
ほぼ機能していません。
指導者も不足しています。
このことを大人達がどれだけ真摯に
真剣に受け止めるのか?
ここに問いたいと思います。
果たしてどれだけの人に
大蔵選手の努力と
それがもたらす危機感が伝わるか…
せめて心ある人の琴線にふれますように。
関連LINK
信州シクロクロス(シクロクロスミーティング公式HP)
日本シクロクロス競技者主催協会(AJOCC)
日本自転車競技連盟(JCF)